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4.戦いの行方は

「敵の大将と思わしき者がこちらへ向かって来るのを確認した!周囲に他の敵は無し、単独だ。迎え撃つ準備を!」  見張りがそう告げるや否や、いよいよか、と賊たちは沸き立った。リュカも剣を携えて、牢獄の入口付近に身を潜めた。  ほどなくして、砦に一人の男が現れた。後ろで縛った長い白髪が特徴的な男だ。まだ若い青年にもかかわらず、自分の背丈ほどもある大剣を軽々しく扱うその姿は、まさに歴戦の猛者そのものだった。 「こ、こいつ……やたら強っ……!」 「ひっ!」  味方が吹き飛ばされていく。男は止まらない。まるで赤子の手を捻るがごとく、次々と賊たちを薙ぎ倒しながら牢獄へと迫っていた。 「その首、貰い受ける!」  リュカは柱の影から躍り出ると、牢獄内部へ入ろうとする男の背後から斬りかかった。真正面からやり合って勝てないのであれば、奇策を使うしかない。 「なっ……!」  ところが驚嘆の声を上げたのは男ではなく、リュカの方だった。男は尋常でない素早さで振り向いて抜刀すると、リュカの剣を受け止めたのだ。キン、と甲高い金属音が鳴り響き、腕に重い衝撃が走る。  剣を交えながら、このままでは押し負けるとリュカは確信した。一旦後ろに飛び退いて間合いをとると、男は間合いを詰めることはせず、こちらの出方を伺っているようだった。ならば、と再び剣を振りかぶろうとしたそのとき、唐突に男が口を開いた。 「貴様、なかなか良い腕をしているな。しかし残念だ。罪のない民を巻き込み、こんな卑劣な真似をしてまで勝利に拘るとは」  男は冷ややかな視線でリュカを見ている。これまで何度となく向けられてきた、軽蔑と殺意の混ざった視線。慣れているから今更どうとも思わない、はずだったが。 「そんなに金が欲しいか。貴様ら傭兵は金さえあれば何でもするのか。人の心はないのか!」 「……黙れ!」  リュカは柄にもなく怒鳴り返すと渾身の力を持って男に斬りかかった。男の顔に僅かな焦燥の色が浮かび、交差した剣から火花が散る。 「一つ忠告しておいてやろう。お前は俺のことを卑しい人間と見下げているのだろうが、お前とていつ何時、こちら側の立場になるか分からんぞ?」 「何が言いたい!」  苛立ちを募らせる男の傍ら、剣を交えたまま、リュカは薄らと冷笑した。 「金に困ったことがない奴には分からんだろうな。地獄を知らぬまま、想像することすら思い付かず、安全圏から語る薄っぺらい正義なんぞ、俺にとってはただの虚像だ」  正義の味方で食っていけるのならどんなに良かったか。誰が好き好んで汚れ仕事ばかりするものか。生きるために仕方なく選び取った道ではあるが、それを名も知らぬ赤の他人に否定されるのは許せなかった。  鈍い金属音とともに男の剣は宙を舞った。勝負はついたようだ。膝をついた男の眼前に剣先を突き立て降伏を促すも、男は何故か不敵に笑っている。 「何がおかしい」  今度はリュカが問いただす番だった。 「想像力がないのは貴様の方ではないのか?時間稼ぎだとも気付かず、私を倒して勝った気でいるとは」  男は自身の頭皮に爪を立てたかと思えばずるりと長髪を引き剥がし、呆気にとられているリュカの足元へと投げ捨てた。ギョッとして男の頭を見ると、先ほどまでとは色も長さも違う豊かな短髪が顕になっていた。 「教えてやろう。私は影武者だ」  遠くから歓声が聞こえてくる。本物の大将が拠点を制圧したのだ。やられた。相手の方が一枚上手だったようだ。そして気付けば敵兵に周囲を包囲されている。こうなればもう勝ち目はない。リュカは観念し剣を床に放り投げた。 「俺の負けだ。処刑でもなんでも気の済むようにするが良い」  敵兵に連れられて砦を出ようとした時、あの少女とすれ違った。誰かが牢獄から救い出したのだろう、少女は衰弱している様子もなく元気そうだった。少女は何か言いたげな顔でこちらを見たが、リュカは一瞥しただけでふいと視線を逸らすと、何事もなかったかのように歩き始めた。

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